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連載コラム「人間へのはるかな旅」第三部 |
2004/06/15
1週間後、上海・木村のオフィス 令芳は毎日木村の用意した車で江南の観光地を見学しています。 木村は毎晩、簡単に令芳に行った先を聞き夕食を付き合って、あと は令芳の自由に任せていました。 木村と令芳が上海に戻って1週間が経ちました。 木村のオフィスに一本の電話がかかってきました。 「木村さん、いま成都に戻ったよ、家に令芳がいない、木村さん令芳 がどこにいるか知らないか」 「令芳さんは私が預かっていますよ」 「エッ令芳をどうしたんだ、令芳を返せ!」 「林(リン)さん、落ち着いて下さい。私は令芳さんには指1本触れて いない、ただ林さんと取引をしたいんだ」 「何だ、令芳に何かあったらオマエを殺すぞ」 「覚悟の上ですよ、林さん。去年あなたとの取引で何があったかはも う言わない。これだけ承知してくれ。今回はインボイス発行で松茸代 金を払うのではなく、荷物が東京に着いて日本本社で確認した後に 代金支払いにしてくれ」 「それで令芳を返すか」 「返す、ただし去年のようなことあったら、私が令芳さんを殺す」 「わかった、令芳に何かあったらオレは本当にオマエを殺す」 「その前に令芳さんが死んでいるよ、そしてオレも令芳さんの隣で死 んでやる。オレと令芳さんが一緒に死んでる、人が見たらどう思うか ね。オマエは一生、オレと彼女の間に何かあったんじゃないかと妄想 で苦しむことだろうよ。 オレも命を賭けているんだ、余計なことを考えるな」 「令芳さん、ご主人から電話がありました。香港に輸出業務があって 行くそうです。成都に戻るまであと5日間くらいかかるので、もう少し 上海で楽しんでくれとのことです」 「木村さん、私こんなに甘えていいのでしょうか。私は天国にいるよう です、夢のような毎日」 「林さんにはお世話になっています。それに令芳さん、私はこの商売 が終ったら日本へ帰任します。ご恩返しは今しかないのです」 「本当ですか、主人がガッカリしますわ」 「令芳さんのことは決して忘れませんよ、中国での一番の思い出です」 5日後、木村のオフィス 電話が鳴った、木村はすぐに取った。日本本社からだった。 「木村か、今度の松茸はすべてグッド、中々いい品だ、高く売れるぞ!」 「ありがとうございます」 「それで本当に支払いはいいのか?」 「ええ、林さんは去年のお詫びだと言ってますから」 「それじゃな、あとは頼むよ」 「令芳さん、いまご主人から電話がありました。成都に戻ったそうです。 午後の便で成都に戻って下さい。ホテルまでお迎えに行きます」 「ありがとうございます。すぐに支度をします」 「お土産持ちきれますか、大分買ったんでしょ」 「ええ、でもみんな持って帰ります。主人にも買いましたから、驚かせて やりますわ」 「それでは私も準備してホテルへ向かいます」 ホテル 「令芳さん、空港へ行く前にお渡ししたいものがあります。これは私から の結婚のお祝いです、御木本の真珠の首飾りです、使って下さい」 「これだけお世話になって、もう十分です」 「私の気持ちです、もう二度とお会いできないかもしれない」 「ありがとうございます、本当にありがとうございます」 「それからもう一つ、この書類をご主人にお渡し下さい。中身はご主人 が分りますので、説明は不要です」 「分りました、間違いなく主人に渡します」 「それでは空港へ行きましょうか、飛行機の出る時間を確認して、私が 成都に電話しておきます。夕方には家に着きますよ。令芳さんが出た あとの便で私は東京に帰ります」 上海空港 「それでは令芳さん、お元気で。幸せにお暮らし下さい」 「木村さん、あなたのご親切は一生忘れません。ありがとうございます」 「これから色々と苦しいこともあるでしょう、二人で力を合わせて乗り切っ て下さい。私もこれからどこの国で働くか分りませんが、貴女のことは 忘れませんよ。それではさようなら」 「林さん、松茸が東京に着いた。令芳さんは1時半の便で成都に戻った、 空港へ向かいに行ってやれ」 「令芳は無事だな?」 「本当だ、指1本触れていない、令芳さんに聞けば分るよ」 「松茸の支払いは?」 「令芳さんに書類を渡した、それを見てくれ」 「書類?何の書類だ、おい、支払いはどうなっているんだ」 「さよなら林、もうオマエとは二度と会わない、令芳さんを大事しろよ」 (次回、最終回に続く)
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(このコラムの前シリーズのバックナンバーは現在整理中です。順次公開していきます。)