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連載コラム「人間へのはるかな旅」第三部 |
2004/04/27
今回はタイの治安を語る上で、私がビジネスマン時代に体験した 誘拐事件について、その顛末を書いてみます。 これは空港でよくある事件で、皆さまも気をつけて下さいませ。 今から10年程前のことです。 私はアユタヤに工場のある大手事務機メ一カ一におりました。 大阪から協力会社の技術者が来るということで、夕方、日本人社 員がドンムアン国際空港まで出迎えに行きました。 当時は工場立ち上げの繁忙期で、出迎えの社員も本来なら別な 部門の人間が行くべきをどうしても手が離せず、ピンチヒッタ一が 行きました。 その社員もぎりぎりまで仕事に追われ、工場を飛び出して行きまし たが、空港に着いたときは大分、到着時間を過ぎていました。 運が悪いことに、その飛行機は予定時間より大分早く着いていた。 出迎えに出た人間はお客さん(仮名・鈴木氏)を探したけどいない。 到着時間から1時間半くらいたった7時頃、工場にいた私のところ に出迎えた社員から電話がありました。 「鈴木さんがどこを探してもいない」 「その便には確実に乗っていたのか」 「乗客名簿を確認しましたが乗っていました」 「そのまま空港で探してくれ、こちらでも探してみる」 私は残っている日本人とタイ人幹部社員を集め、大捜査線を敷く ことにしました。 まず日本人社員を宿泊予定のマンハッタンホテルに行かせ、そこ で待機するようにさせました。 タイ人幹部社員にはツ一リストポリスに連絡し、鈴木氏が誘拐され た可能性がある旨を連絡し、協力を要請します。 次にバンコクの主なホテルに電話をして、間違ってチェックインして いないかの確認。 しかし、時間は経過すれど、何の情報もありません。 私たちにとって不運だったことは、鈴木氏は技術畑の人でタイは初 めて、私の工場でも誰も鈴木氏の顔を知らなかった。 8時、9時と時間は過ぎていきます。 空港からは、まだ見つからないとの連絡。 マンハッタンホテルからは、まだ来ていないとの連絡。 私は焦ってきました、最悪の光景が目に浮かびます。 空港から騙されて連れ去られ、金品を奪われ、殺害される! 総務の日本人社員からこう言われました。 「もしかしたら日本の家に連絡をとっているかもしれないので、自宅 に連絡して聞いて欲しい」 10時(日本時間の12時)、私は名古屋在住の一人の商社マンに 電話をしました。 「こういう理由で○○社の鈴木氏が行方不明である。何とか彼の 自宅の電話番号を調べてくれないか」 優秀な商社マンであった彼は、その会社の受付のガ一ドマンに電話 して聞き出し、すぐに連絡してくれた。 私は迷いました。いま自宅に電話して 「ご主人が行方不明です、何かご主人から連絡がありませんか?」 などと言ったら、奥さんはパニックになってしまうだろう! 10時40分、私はもう限界だと思って電話機に手をかけました。 その時、電話のベルが鳴った。 「マンハッタンホテル待機組です。ただいま鈴木氏が到着しました。 怪我はないようです。会社の迎えだと名乗った者に食事や買い物 に連れていかれたそうで、いまホテルで降ろされたそうです」 私はヘナヘナと崩れ落ちそうになってしまった。 「すぐに行くから待っててくれ!」 その後、空港の社員に見つかったと連絡、マンハッタンへ行けと指示、 タイ人社員にツ一リストポリスへの連絡を頼み、名古屋の商社マンに見 つかったと連絡、工場に残っていた社員へも全部連絡して飛び出しました。 夜中の12時半、鈴木氏を囲んでよかったよかったと喜びましたが、彼は 私たちに事情を聞くまで騙されたとは思ってもいなかったそうな。 鈴木氏に話し掛けた方法は、多分バッグの名札を見たのでしょう、 「鈴木さんですね、会社から出迎えにきました。お車の方へどうぞ」 それが余りにスム一ズな日本語で、当社から迎えが行くことは連絡して あったので、全然疑うことはなかったと言ってました。 幸いだったのは食事代と土産物代くらいですんだこと、パスポ一トと現金 全部取られて、ケガでもされてたら...と考えたらゾッとします。 深夜1時、こんな時間までやっている店はラ一メン一番くらいしかなくて、 私たちはラ一メンを食べながら、ひそかに安堵したものでした。 次の日は仕事はアッという間に済ませ、アユタヤ観光に連れて行き、 夜は美味しいタイ料理、カラオケに連れてって大サ一ビス。 もちろん鈴木氏が誘拐されていた時に使わされた食事代、土産物代 計10万円くらいは全額立替、翌日空港まで送って日本へ帰しました。 この事件は私たちに大きな教訓を残しました。 まず海外出張に来る人は、そんな旅慣れた人ばかりではない。 出迎えを頼まれた時は必ず決まった書面で、 《イミグレを出て左側の出口に、弊社の看板を持った誰々が行く、タイ人 が迎えに行くことは絶対にない、初対面の時は必ずこちらの名刺を出す から名前を確認して下さい》 とFAXで送るようにしました。 蛇足ですが、この空港への出迎え、見送り業務が海外駐在員の仕事を どれだけ繁忙させているか、これは駐在してみないと分らない。 この方法の誘拐は世界の空港で頻繁にあります。 ドンムアン空港でもこの後、同じような事件がありました。 やり方は最もオ一ソドックスで、なぜか日本人はひっかかりやすい。 戦後ずっと平和な社会で過ごしてきた日本人は、人を疑うことをしない。 タイは治安はいいけど、この程度の事件ならいつでもあることを知って おいて下さい。 金持ちの日本人は世界中で狙われている。 世の中は善人ばかりではありませんぞ。 一日の苦労は一日にて足れり (新約聖書) 余 談 前に私はアジアを学ぶ学習塾を主宰していると書きました。 その塾生はアジア中にいますが、もちろんマニラにもいます。 マニラの塾生は「邦人殺人事件なんて珍しくありませんや、誰も話題に もしません」とのたまう。 バンコクで邦人殺人事件があれば、日本人社会は1ヶ月はその話題で もちきりとなる。 私の記憶では邦人殺人事件は1年に3件くらいかな。 こう書くとエッと驚くかもしれませんが、東京より比率は低いと思います。 原因は圧倒的に女性を巡るトラブルが多い、従って殺されるのは男性。 最近はあまりモノ盗りで殺されるようなことはない。 タイでは外国人殺しは極刑ですし、警察の追及も厳しい。 だからモノ盗りで殺しまではしない。 女性を巡るトラブルで殺されるのは、タイ人はカッとすると何をしでかす か分らない激情性があるからともいえます。 男性諸兄、カネをだせば何でもできると思ったら大間違いでっせ。
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(このコラムの前シリーズのバックナンバーは現在整理中です。順次公開していきます。)